軟骨がすり減っただけでは痛くはなりません
膝の痛みで整形外科にかかった時に、レントゲン検査をうけて「軟骨がすり減ってるから膝が痛いんです」って説明をうけたことはありますでしょうか?
今回のブログは、そんな説明を受けたことがある方が対象です。
まず、軟骨がすり減っても痛くもかゆくもありません。
だって、軟骨の中には痛みを感じるセンサーがありませんから。
痛みを感じるためには刺激をうけて電気信号に変える受容体(じゅようたい=センサー)と、信号を脳に伝える神経と、脳の3つが必要です。
受容体、神経、脳のうち、どれかが痛みの刺激をうけると「痛い」と感じます。
軟骨の中にはその3つともありません。
軟骨の役割は骨を痛めないためのクッションです
骨は主にカルシウムからできていて、体を支えるために硬くできています。たとえていうならコンクリートと一緒です(コンクリートもカルシウムが含まれていますね)。コンクリート同士がぶつかったら当然欠けてしまいます。関節は骨どうしがすれあう場所です。骨同士が擦れる時に骨が傷つかないようにしてくれるのが軟骨の役割です。
したがって軟骨は柔らかく、簡単に傷が入ってしまいます。
膝関節に限らず関節の周りに小さい筋肉があり、関節を動かす時には軟骨同士がかたよって傷がつかないように骨同士の角度を微調節してくれています。この筋肉が弱くなってくると軟骨が傷つきだします。
スポーツや重労働をしている人は関節にかかるエネルギーも大きくなるので筋力が正常でも軟骨が傷ついてしまう場合もあります。あと、膝の周りの靱帯が切れていたりしても軟骨が傷ついてしまいます。
軟骨が傷つく=膝をすりむいた時にどうなるかを考えてみましょう
転んでしまい、膝をすりむいてしまいました(皮膚には受容体があるので痛いですね)。最初は血が出ていましたが、しばらくすると血が固まってかさぶたができます。よく見ると透明な液体がかさぶたの周りにできてきましたね?何かのひょうしにかさぶたをぶつてけてしまうと液体がかさぶたからさらに出てきます。
軟骨が傷ついてもおなじようなことがおきます。関節の中なので液体は乾燥するわけでもなく流れ出すわけでもなく、関節の中にたまっていきます。どうしても膝をつかわないと人間はせいかつできませんから、動くたびに水がでてきます。「膝に水がたまる」正体はおおむねこういうことです。
水がたまると関節が腫れてきます。腫れると動かした時に痛みが出ます。動かさなくなると関節はこうしゅく(こうしゅく)といって動く範囲が狭くなったり、膝周りの筋肉を使いませんから筋力が落ちます。
筋力低下→軟骨損傷→関節拘縮→筋力低下・・・・負のスパイラル
このようにして軟骨はすり減っていきます。すり減った軟骨は再生しません(正確に言うと、再生する速度がすり減っていく速度に追いつかないのと、すり減った後に再生する能力には限界があるので元通りにはなりません)。
軟骨は骨同士が当たった時のクッションですが、軟骨がすり減れば骨も傷つきます。軟骨を支えている骨に小さな骨折がおこり、骨の変形がおこります。骨が変形すれば筋肉がうまく使えなくなり・・・とここでも負のスパイラルがおこっていきます。
スパイラルを逆に回しましょう
傷んでしまった軟骨、関節は戻りません。が、痛みを楽にしていくことは可能です。「負のスパイラルを逆に回せばよい」です。したがって、大事なことは以下の3つです
- 筋力をつける
- 関節の拘縮をとる(動きを良くする)
- 関節に水がたまりにくくする
筋力低下・拘縮・関節水腫。実はこの3つが膝の痛みの3大原因だったりします。他院で痛みが改善せずに、当院を受診される患者さんのお話をきいていると、どれか一つしか対応していなかったり、十分な病状に対する説明を行われていなかったりということが多い印象です。
筋力をつけましょう
というと「散歩してます」とか「スクワットしています」とかおっしゃる患者さんが多いんですが・・
自己流でやって良くならなかったので今整形外科受診されてるのでしょ?
と言っています(笑)。なんでも自己流は良くないです。
どうやったらいいか?は患者さんごとに違います。超高齢で体重もかなりある患者さんと常日頃スポーツをしている筋肉隆々の患者さんが同じやり方なはずはありません。やり方も、ちゃんとポイントを押さえてやっていかないと、効果が低かったりかえって痛みの原因になったりします。
関節の拘縮をとりましょう
これこそまさに療法士の出番です。運動器リハビリで筋肉の緊張をとりながら、関節の動きをよくしていきます。
拘縮をとるには筋力も必要です。痛みがおちついてきたら筋力トレーニングとあわせて治療を行なっていく必要があります。
関節に水がたまりにくくしましょう
軟骨を痛める動きを減らすのが基本です。何度も言いますが、歩くと軟骨が痛みますので特に最初は歩く量は最低限にしましょう。(ある程度治療が進んだら散歩もいいです)。
最初にどうしてもたまっている水の量が多いと、リハビリもなかなか進まないので注射器で関節の水を抜くのも良い方法です(痛いです)。ステロイドの注射をするとまた水が溜まってくるのを強制的に抑えることは可能です。ただ、お薬で抑えているだけなので必要なリハビリをしていかないとまた溜まってきますし、かえって変形性関節症を進行させてしまいます。湿布を貼るのも同じです。
変形性膝関節症が悪化しないような生活習慣を作っていきましょう
日常生活において膝に負担がかかる生活を送っていることが原因ですから、日常生活を変えていかないと良くなることはありませんし、一旦良くなってもまた悪く(そして条件は悪く)なります。
変形性膝関節症の痛みは波があるので、一旦痛くなってもほっといたら良くなることもあります。「痛みがとれたらそれで終わり」ではないのです。また病院にかからなくて良いようにもう一段階、変形性関節症が悪くならないような生活習慣をつけていきましょう。
このブログの説明はだいぶはしょっています
医学的に正確ではない点が多々ありますが、わかりやすいように説明するためですのでご理解いただければと思います。
あと、お気づきかもしれませんが、どんなに膝の関節が変形していても、必要なトレーニングをしていれば膝の痛みは軽減されます。実際に「膝関節の変形の度合いと膝の痛みの強さとの間には関係がない(相関関係がない)」という論文も出ています。あきらめずにトレーニングをしていきましょう。