手のしびれ①(手根管症候群)

てのしびれ 手根管症候群 830×510

しびれとは?

「手がしびれます」を主訴で来院される患者さんは結構いらっしゃいます。
「しびれ」という日本語は、症状としてはじつはすごく曖昧です。「しびれ」を別の言葉でおきかえてみると。

  1. 正座したあとのビリビリとした痛みに似た感覚
  2. さわった感じがにぶい(無い)
  3. 力がはいりにくい(はいらない)
  4. 弱い痛み

となります。
実は1.2.3.4.でそれぞれ別の原因を考えなくてはいけません。今回は1の意味での「しびれ」についてのお話です。

しびれの原因

実はしびれを感じる受容体はありません。
こちらのブログでも書いていますが、感覚は「受容体」「神経」「脳」から成り立っています。
例えば指を切った場合、切った皮膚にある「受容体」が刺激をうけ「神経」が脳まで信号を届け「脳」でその信号を処理して始めて「痛い」という感覚になります。

皮膚にある受容体は

  • 触覚(さわった感じ)
  • 圧覚(押された感じ)
  • 痛覚(痛み)
  • 温覚
  • 冷覚

の5つです。「しびれ」を感じる受容体はありませんね?

しびれは特殊な状態でおきる感覚です

しびれの原因は主に受容体でうけた刺激を脳に伝える働きをする「神経細胞」がダメージを受けた時に生じる感覚です。神経細胞は「軸索(じくさく)」といういわば電線にあたるような長いコードを持っています。軸索をつたって信号が受容体から脳に伝わるのですが、この軸索が強く圧力をうけると脳に「しびれ」として情報が伝わります。
このような機序で生じるしびれのことを「神経絞扼(こうやく)性障害」といいます。「絞扼」とは「しめつける」という意味です。

絞扼性障害が生じる部位は体の解剖学的な構造によって決まっています。

手の表面まで届く神経は主に背骨の中にある脊髄から出ています。脊髄を出て手の表面に達するまでどの組織の間を通っていくかは決まっています。

絞扼部位によって、症状が変わります。

「どの部位で神経が絞扼されるか?」によって症状が変わってきます。
背骨に近いところで絞扼が生じれば、広い範囲が「なんとなくこの範囲」といった感じでしびれますし、手足の先の方に近いところで絞扼が生じれば、それこそ境界が「くっきりと線がひけるように」しびれます。

やっと本題、手根管症候群です

前置きが長くなってしまいました、「しびれる」という症状が特殊だということがおわかりいただけたでしょうか?
「手がしびれる」といった症状で受診されようとお考えの方は、まず「どの指がしびれているか?」を確認してください。今回のメインテーマである手根管症候群は、「親指から中指」にかけてのしびれが特徴的です。逆に言えば小指がしびれることはありません。
あと、手の甲がしびれることはありません。図にすると下の絵のような範囲になります。

手根管は骨と靭帯で囲まれた腱と神経の通り道です

手根管は手首の小さな骨(総称して手根骨といいます、8つあります、理学療法士さんはちゃんと8つとも名前を言えます。聞いてみてください)と横手根靭帯で囲まれた「腱と神経の通り道」です。日本語では「管」ですが、英語では「tunnelトンネル」です、なんとなくトンネルのほうがイメージしやすいですね。
手根管の中には手の指を曲げる腱と神経が走っています。手首や手の指を使いすぎると腱が腫れて神経を圧迫してしまいます。また、手首の周りの骨折をした場合、変形により手根管の断面積が狭くなって神経を圧迫することがあります。
いずれにしても手根管を通る神経が行き着く範囲がしびれます。

手根管症候群に特徴的なのが、親指と人差し指で輪っかを作ろうとした時、親指の関節が曲げれずにDの字になってしまうことがあります。ここまでひどくなると流石に手術した方が良いです。

手根管症候群の診断

症状でおおよその診断はできます。MRIや超音波検査で神経が圧迫されているのを確認できれば診断の補助になります。確定診断は神経電動速度検査ですが、他の病気と区別がつきにくい時に行います。「多分手根管症候群だろうなぁ」と考えて治療開始して、治ればOKといった感じです。

手根管症候群の治療方法

保存療法

手根管症候群がなぜしょうじているか?にもよりますが、まずは保存療法を試します。原因として一番多いのは手指の腱が腫れていることですので、仕事上どうしても手を使われる場合は作業工程を見直していただきます。どうしても安静が保てない場合は手首の動きを制限するサポーターが結構効果的です。腱の腫れをとるために、超音波などの物理療法を行う場合もあります。手関節や手指の動きが硬いとなかなか腱の腫れも取れないため、手指や手関節のストレッチも行います。

サポーターが一番簡便で効果的な疾患です。昼間は邪魔でも、夜寝ている時だけでもサポーターを使うとしびれはとれていきます。

注射療法

腱の腫れを取るために、手根管にステロイドの注射をうつ方法もあります。一時的なものにはなりますが、一番効力を発揮するのは出産前後の女性です。女性ホルモンのバランスの関係で症状が出るので(=時間が経てば自然に治る可能性が高い)、注射で症状抑えるのもQOLの観点からおすすめです。赤ちゃん抱っこしちゃダメとも言えませんしね。

手術療法

上記治療方法に抵抗したり、手関節の骨の変形による手根管症候群の場合は手術を選択します。
麻酔方法の選択などで一概には言えませんが、通常日帰りで1時間程度で終わる手術です。
手術の難易度もそれほど難しくなく・・・と書くとカドがたつので、私が医師になって2年目に上級医と一緒にした初めての手術のうちの一つでした。と書いておきます。
具体的にどのくらい術後の通院が必要かは、紹介先の実際に手術される先生に確認をお願いします。

おまけ

手首の骨の名前:舟状骨・月上骨・三角骨・豆状骨・小菱形骨・大菱形骨・有頭骨・有鉤骨

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