いまや日本の国民病となった肥満症
以前は先進国の中では肥満の割合が低いと言われていた日本ですが、年々肥満の人の割合が増えてきており、今や成人男性の4人に1人、女性の5人に1人が肥満になっています。
肥満に伴う様々な健康上の問題をひっくるめて「肥満症」と呼んでいます。
肥満症の定義
BMIという指標をご存知でしょうか?以下の式で計算れます。
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
BMIが25を超えると肥満になります。
ぱっと頭の中で計算するのは難しいので、大まかな数値でいいので把握してみてください。
身長(cm) | BMI=25になる体重(kg) | BMI=30になる体重(kg) |
---|---|---|
140 | 49.0 | 58.8 |
145 | 52.6 | 63.1 |
150 | 56.3 | 67.5 |
155 | 60.1 | 72.1 |
160 | 64.0 | 76.8 |
165 | 68.1 | 81.7 |
170 | 72.3 | 86.7 |
175 | 76.6 | 91.9 |
180 | 81.0 | 97.2 |
185 | 85.6 | 102.7 |
いかがでしょうか?ご自身がどの程度のBMIか、だいたい予測はできたでしょうか?統計的に見ると、このブログをお読みになられている成人の4人に1人はBMI25以上ということになります。
BMIが25を超えると「肥満」になります(日本肥満学会の定義による)。
BMIの他にも、ウエスト径が男性で85cm女性で90cmを超えると内臓脂肪蓄積と呼ばれる状態になります。
「肥満」であり、なんらかの肥満に伴う疾患を抱えている人を「肥満症」といいます。
肥満を解消することにより疾患の改善が見込まれるというわけです。
肥満症を解消するためには?
ちまたには多くの肥満改善関係の商品があふれていますね。
日本肥満学会が作成している「肥満症診療ガイドライン2022」で推奨されている治療法は以下の4つです。
肥満解消には余計な脂肪を減らす必要があります。脂肪=エネルギーの貯蔵庫ですので、単純に言えば摂取したエネルギーよりも使ったエネルギーが多ければ痩せます。
しかしながら食事を全くとらないと体はエネルギーを使うために筋肉を分解してエネルギーを得ようとします。筋肉はエネルギーを消費する場所ですので、筋肉は減らさないようにしたいです。ですので極端にエネルギー摂取を抑えるのもダイエットには返って逆効果になります。1日に生きていくのに最低限必要なエネルギー量を基礎代謝エネルギーといいます。基礎代謝エネルギーと同じだけのエネルギーを摂取してそれ以上摂取したエネルギーは運動によって消費するのが最も良い解消法になります。
食事療法
摂取エネルギー量の設定
目標とする摂取エネルギー量は
35kcal×目標体重(kg)=摂取エネルギー量(kcal/日)
です。目標体重は年齢によって変わってきますが、22<BMI<25になるように設定します。各身長ごとの目標とする摂取エネルギー量はおおよそ以下のとおりです(BMI=22で計算)。
身長(cm) | 目標摂取エネルギー量(kcal/日) |
---|---|
140 | 1078 |
145 | 1156 |
150 | 1238 |
155 | 1321 |
160 | 1408 |
165 | 1497 |
170 | 1590 |
175 | 1684 |
180 | 1782 |
185 | 1882 |
ネットでダイエット方法について調べると「糖質制限食」「脂質制限食」などが出てきます。6ヶ月程度の短期間ならこれらの食事療法は効果がありますが、1年以上続けるとなると他の食事療法と比較してもあまり差はないと言われています。
いきなり上記のエネルギー量を目指そうとしてもかなり空腹になると思います。そのような場合は、まずは現在の摂取エネルギー量より500kcal少ない量を目指しましょう。
人工甘味料
人工甘味料が減量に有効であるかどうかははっきりしていません。減量中に人工甘味料をとったほうが減量率が高かったという報告がある一方、人工甘味料を含む飲料を飲むと肥満のリスクがあがるという報告もあります。
運動療法
減量には運動が必要と言われますが、どの程度の運動が必要かは議論が分かれます。よく「歩け」という先生がいますが、このブログを読まれているかたで膝や腰が痛いかたの場合はかえって症状を悪化させる場合がありますので、整形外科の医師に確認してください。
一般的には「中等度の強度の有酸素運動を週に150分程度」と言われます。
「中等度の運動」とは
・時速20キロ程度でのサイクリング
・ゆっくりとしたペースでのスイミング
・ゆっくりとしたペースでのボート漕ぎ
などがあります。
「有酸素運動」とは息がすこし切れる程度の運動をさします。
「150分程度」の運動では、実はあまり減量効果は認められません。225分〜420分程度の有酸素運動を行うと8週間に5〜7.5kg程度の減量が見込めます。
行動療法
体重が減らない原因は個人個人で違います。原因ごとに対策が必要なのですがここでは簡便な解決策のの一つである「グラフ化体重日記」について書きます。
グラフ化体重日記
減量のペースは肥満症の人の場合「1週間で1kg変化したら十分」な程度ですが、食事や飲水、排出、排尿などによる変化のほうが大きいです。1日に何回も体重を測り、1日の中での変化量を認識すること、長期的に体重が変化していることを認識するために、1日に時間を決めて何回も計測し、グラフにすると良いでしょう。
最近はスマホアプリでもありますし、体重計の中にはスマホアプリと連動して自動的に計測結果をアプリに送ってくれるものもあります。
薬物療法
最近注目されているのが「GLP-1受容体作動薬」です。
GLP-1は膵臓でのインスリン分泌を促進します。それにより食欲を下げる働きや腸管の動きを抑える働きがあります。
簡単に言えば「満腹になったと勘違いさせてくれる」作用があります。
日本では2型糖尿病の治療薬として保険診療が認められています。肥満症に対する治療としては保険適応外(自由診療)での処方になります。
外科療法
手術によって胃を小さくしたり、消化管を短くすることにより栄養分の吸収量を抑える方法があります。
あとがき
このブログは日本肥満学会が編集した「肥満症治療ガイドライン」を参考にして書いています。
ガイドラインにはもっともっと色々なことが書いてありますが、肥満症の治療のために必要な最低限の知識について大まかに知っていただくためにだいぶ省略して書いてみました。
ガイドラインを読んでの個人的な感想ですが、「肥満症による運動器疾患にはかなりハードルが高いな」という印象をうけました。
減量のためには有酸素運動が必要なのですが、もっとも敷居の低い有酸素運動であるウォーキングは変形性膝関節症や変形性股関節症の症状を悪化してしまう可能性があります。
かといって摂取エネルギー制限は空腹との戦いです。痩せなければいけないのになかなか痩せれないのもわかります。
減量の効果が実感できるのは元の体重の5%前後変化した時と言われます。もともと60kgの人で3kgですね。
肥満症治療ガイドラインによると、「3ヶ月間栄養療法、運動療法を行なって、効果が出ない場合は薬物療法を試みる」と」なっていますが、膝が痛い、股関節が痛い患者さんの場合は先に減量しないと運動療法で逆に症状が悪化してしまいそうです。
現在肥満症治療の薬物療法で保険適応が認められているのは「ウゴービ」ですが、BMI35を超える高度肥満が対象であり、大学病院などの大病院でないと治療をうけることができません。
他の有効な治療薬はありますが、いずれも自由診療(全額自己負担)での治療になります。
現在糖尿病の治療薬として認められている「マンジャロ」が最も減量効果が高いと言われています。