スポーツと疲労骨折

スポーツと疲労骨折 830×510

最近、あるプロ野球選手が練習試合の登板時に大腿骨の骨折を起こして手術になったとのニュースがありました。投球動作時に大腿骨骨折を起こして立てなくなり、そのまま救急搬送。近くの病院で手術をうけたそうです。
正式な報道はありませんが、おそらくもともと大腿骨の疲労骨折を起こしていたのであろう、と推測されます。

今回はその疲労骨折についての話です。

疲労骨折とは?

骨折は骨に何らかの力が加わることでおこります。骨はリン酸カルシウムを主成分としており、ある程度の力には耐えることができます。が、限界を超える力が加わると壊れてしまいます。これが骨折です。
通常は強い力によって骨折は起こりますが、弱い力が繰り返し加わることによっても骨折は起こります。ちょうど針金を折るとき、同じ部位を繰り返し折り曲げると思いますが、それと同じ感じです。
「弱い力が繰り返し同じ部位にかかることにより生じる骨折」を疲労骨折といいます。

スポーツと疲労骨折

疲労骨折は特に肉体労働についていない限り、日常生活でおきることはまれです。骨は常に傷んだところを修復するようにできているため、筋肉に引っ張られて骨に力が加わっても修復する力のほうが一般的に強いからです。
ところがスポーツでは同じ運動を繰り返し行う必要があります。野球のピッチャーの投球動作はまさにその典型です。それ以外にも以下のような骨折があります。

骨折部位スポーツ
第7頚椎棘突起ゴルフ
第1肋骨野球、ゴルフ
尺骨骨幹部テニス、ソフトボール、剣道
坐骨、恥骨長距離走、サッカー
大腿骨頸部長距離走、サッカー
膝蓋骨ジャンプ競技全般、サッカー
脛骨内顆長距離走、登山
脛骨内果サッカー
第3中足骨長距離走、登山

疲労骨折はあまり痛くないこともあります

話を最初の投手に戻しますが、野球投手の大腿骨の疲労骨折は決して珍しいものではありません。
実は疲労骨折はそれほど痛くないことも結構あります。通常の強い力が加わってできる骨折と違って小さな骨折が繰り返し起こって生じる骨折なので、あまり腫れないことが原因と考えられます。人によっては「なんとなく力が入りにくい」といった曖昧な訴えのこともあります。
この投手もおそらく「何となく調子悪いけど、キャンプに入って練習量が増えたせいだろう」程度ではなかったかと思います。少なくとも少し我慢すれば練習を続けられるレベルの痛みであったと推測します。そして練習試合でマウンドに立って、いつもよりちょっと力を入れて投げようとしてとどめの力が加わったのだろうと推測されます。
受傷した時の動画がありますが(直接リンクははりませんので、興味のある方は探してみてください)、右脚を地面につけて、特に大きな力が加わったわけでもないのに、すぐに膝のすぐ上の部分で太ももが曲がっているのがわかります。

疲労骨折の治療法

疲労骨折が起こる原因は「繰り返し同じ動作をする」ことですので、まずは一旦スポーツを中止しましょう。疲労骨折の部位や程度によっても違いますが、通常2〜3ヶ月はスポーツを中止しなくてはいけません。
ニュースになった選手のように、大きくずれてしまった場合は手術(観血的骨接合術)が必要になります。スポーツ復帰までは3ヶ月以上の時間がかかると思います。
スポーツを中止したからといって、なにもせずにぼーっとしていればいいというわけではありません(スマホばっかりいじってたらいけません!)。
そもそも「他の人は疲労骨折していないのに、自分だけ疲労骨折をしたのはなぜだろう?」と思いませんか?
実は近隣の関節の動きが固くなっていることや、体を支える筋力の不均等が疲労骨折の原因であることがわかっています。スポーツを休んでいる間にそれらの関節のストレッチを行ったり、関節を安定させる筋肉(インナーマッスル)のトレーニングを行なっていかないと、せっかく骨折が治癒してスポーツに復帰したとしても同じように疲労骨折をしてしまうことになります。
また、スポーツをする環境が疲労骨折を生じる原因になっている例もあります(例:サッカー選手の第5中足骨疲労骨折と土のグラウンド)。そのような場合はチーム全体で考えて環境を変えていくしかないと思います。

年齢によって起こしやすい疲労骨折は違います

疲労骨折は2次成長がおこる10歳ごろより頻度が上がります。この時期に身長が急激に伸び、体が固くなりやすいことが原因です。骨の成長は15歳前後まで続きますが(性別で違います)、成長に伴い疲労骨折を起こしやすい場所も変わってきます。
したがって、私たち整形外科医は、

  • 年齢
  • 性別
  • 行なっているスポーツ
  • ポジション
  • 競技レベル(全国レベルか、レクリエーションレベルか)
  • 症状が出た状況
  • 練習量
  • 靴(練習で使う靴を必ず持ってきてください!)

などの情報をもとにして診断をしていきます。

レントゲン検査だけでは診断がつかない場合が多々あります

疲労骨折の診断が難しい理由として、「発症初期はレントゲン検査で骨折がわからない」場合が多いことがあげられます。超音波検査を行うと骨周囲の組織が腫れているのが確認できることもありますが、確実ではありません。症状が出て3〜4週間経過して改めてレントゲンを撮り直してみると骨折がわかることがあります。「後ほど名医」という言葉がありますが典型的な例です。
MRI検査を行うと早期に診断がつきますが、いかんせん高額な検査ですのでバンバン検査しましょうとも言えません。大会が近くてどうしても早く診断をつけなければならない時など、特殊な事情がある場合にはMRI検査を行います。

女性アスリートは特に注意が必要です

女性の場合は疲労骨折の原因に若年型骨粗鬆症が隠れていることがあります。

  • 3ヶ月以上月経が停止している
  • 15歳以上で初経がまだない
  • 標準体重より85%以下しか体重がない
  • 最近急に体重が減った

などが該当される場合は性ホルモン分泌がうまくいっていなかったり、過度のダイエットが原因のこともあります。一度産婦人科を受診することをお勧めします。

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